■そもそもなぜバイオリンの楽譜に重音が登場するのか?
まずは本題に入る前に、どうしてバイオリンの楽譜に重音が出てくるのかということについて考えましょう。
いろいろな理由、重音の使い道がありますが、主なものとして理解しておきたいのは、次の2点です。
(1)旋律に自分で「ハモり」をつけて、美しく、そして重厚な演奏をする。
単音と重音では、響きの強さに大きく差が出ます。
例えば、次の譜例はブラームスのバイオリン協奏曲より第3楽章の冒頭です。
旋律のほぼ全てが3度の重音で描かれています。
確かに演奏は簡単ではありませんが、単音で上の音を弾くだけよりも、ずっと重厚で堂々とした響きになります。
オーケストラをバックに演奏するような協奏曲では、このような形は非常によく出てきます。
次の例は、シベリウスのバイオリン協奏曲より第1楽章の一部です。
ここでは6度での重音、そしてオクターブの重音が出てきます。
(2)和音で伴奏をつける際に、限られたパート(セカンドバイオリン、ヴィオラなど)だけで和音を構成させる。
こちらは、伴奏パートで重音を用いる例として、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」より、第4楽章の一部です。
この譜例から先、セカンドバイオリンとヴィオラで三和音の伴奏が続きます。
ファーストバイオリンの旋律とチェロによるベースラインの間を和音で埋めるような形です。
この時、和音をつくるのはセカンドバイオリンとヴィオラの2人だけですが、セカンドバイオリンが重音を使うことで三和音が成立するのです。
これは、1パート1人で弾く室内楽に限らず、オーケストラのパート譜においても考え方は同じです。
■バイオリンでよく出てくる重音のパターンは?
さて、ここまでで3度、6度、オクターブの重音の例が出てきました。
演奏の中でよく出てくるのも、この3種類の重音です。
他にも、4度、5度、10度というものもありますが、
4度→出現頻度が低いので後回し
5度→基本的に一つの指で押さえるだけなので、あまり難しくない
参考:減5度のフィンガリング
10度→極端に指を拡げる難しい奏法なので、上級者以外は練習する必要がない
このような理由で、まずは3度、6度、オクターブの重音に取り組むのが良いのです。
■練習する順番は、6度→オクターブ→3度
・まずは6度の練習を
さて、3種類の重音のうち、どれから取り組むのが良いのでしょうか。
音階教本などでは、3度の重音によるスケールが先に出てくることもありますが、まずは6度の重音から取り組むべきだと私は考えています。
なぜかというと、3種類の重音のうち、最も自然な指の形で弦を押さえることができるからです。
(ただし、これには個人差があります。人差し指や中指に比べて薬指や小指が十分に長い方の場合は、3度の重音の方が押さえやすいと感じることがあるのです。このようなケースは日本人には珍しいようですが。。。)
具体的には次のような指番号になります。
6度は、速いテンポでスケールを弾くのは非常に難しいため、初めは2つの音のハモりをよく聴きながらゆっくり練習しましょう。
初めのうちは、押さえ方のしっかりしている人差し指〜薬指までを使って練習すると良いのです。
慣れてきたら、薬指と小指による次のような重音も含めて練習しましょう。
・6度の次はオクターブ
6度の次は、オクターブの重音に取り組みましょう。
オクターブは、隣り合う2本の弦をまたがって1と4で押さえ、オクターブ違いの同音を鳴らす重音です。
オクターブの重音は、音程が合っているかどうか、とても確認しやすいです。
練習方法としては、一旦4の指で正確な音を取って、その響きに溶け込ませるように1の指を取ります。
連続したスケールの練習も良いですが、まずはファーストポジションとサードポジションでそれぞれオクターブを取る練習をし、ポジションによって人差し指と小指の感覚が変わるということを体感するのが出発点です。
教本などでは下の音から拾って練習する例もありますが、上の音を基準にして音程を取る練習をしていたほうが、実践の際に演奏しやすいです。
オクターブに限らず、他の音程の重音も同じです。
・最後は3度
ここまでの6度の練習、オクターブの練習を通じて、2つの音が溶け合っている状態を聴くことができるようになっているかと思います。
この「重音の聴き取り方」を生かして、3度の重音に取り組みます。
3度の重音は「1−3」もしくは「2−4」の指の組み合わせで演奏します。
1の指と2の指は2本の弦のうち高い方の弦を押さえるために曲げ、指を立てて指板に下ろす必要があります。
この時、どうしても指、もしくは手全体に力が入ってしまい、強ばってしまう場合が多いのです。
これが、何種類かの重音の中でも3度の重音が難しい理由です。
調性や臨時記号によって4本の指の位置関係は変わりますが、まずは次の譜例で練習するのが良いでしょう。
これが、比較的4本の指を必要な位置に下ろしやすい形です。
この譜例を練習した後に、ファの♯を取ったり、さらにミに♭をつけるなどして、様々な指の配置を試してみるのが良いでしょう。
3度のスケールに取り組むのは、このようにファーストポジションでの3度の練習が出来てからで遅くありません。
むしろ、3度を押さえる指の形をしっかり身につけ理解した後に、スケールに取り組むべきでしょう。
今回は、6度の重音、オクターブの重音、3度の重音について練習の仕方を整理しました。
重音をバシバシ決めていくのはなかなか難しいですが、指を慣らせることを含めて、少しずつ練習していきましょう。
指の形を覚えたら、音階教本を使ってスケールの練習をしていきましょう。
お勧めは、音階練習の基本が効率よくピックアップされている、小野アンナの音階教本です。