■開放弦の特徴的な音色
確かに、合奏指導などでは、「開放弦を使うな」と言われることが多々あります。
弦楽器に詳しい指導者においてはもちろんの事、そうでない指導者の場合でも「開放弦=良くない音」と思っているために、頻繁に言われるのだと思います。
開放弦は、本当にどんな場合でも禁止なのでしょうか?
開放弦を弾くと、特徴的な、比較的鋭い音がなります。これは、弓で弾いた場合でも、ピチカートで弾いた場合でも、同じです。
また、弦を張っているバイオリンの構造上、開放弦の音には基本的に上下に音程を揺らすビブラートをかけることはできません。
このような、ビブラートをかけることのできない、また特徴的な鋭い音によってフレーズの他の音から極端に浮いてしまうことを避けるために、「開放弦を使うな」という指示になるわけです。
一方で逆のパターン、つまり開放弦の特徴的な音色を活かすために、作曲家が開放弦の使用を指定しているケースもあります。
これは、ラフマニノフの交響曲第2番の、4楽章に出てくる譜面の例です。
力強い響きが欲しい箇所と、対照的に開放弦の純粋な響きを活かした部分と、分けているのです。
■開放弦の使用にも、メリットはある。
ここまで書いてきたように、作曲家自身が特殊な響きを狙って開放弦の使用を指示している場合はあるわけですが、これはあくまで特別な例であって、それ以外の箇所での開放弦の使用には慎重にならざるを得ない部分はあります。
しかし、開放弦を使うメリットもあり、その際たる決定的なものは、確かな音程が取れる、という点です。
(これは、調弦がしっかりできていることが前提です。また、純正律やピタゴラス音律、平均律が・・・という高度な音律の議論はここでは考慮していません)
これは、非常に大きなメリットです。開放弦を使ったその音の音程が正確に取れるというだけではなく、開放弦で取った音は、つながっている他の音を演奏する上でも、ヒントになるわけです。
また、他のメリットとして、左手の運指、つまりフィンガリングが楽になる、ということも挙げられます。
開放弦を弾くときは、当然左手で弦を押さえる必要がありません。
(重音奏法や、移弦時に備えて別の弦を押さえているケースはありますが、これは高度な話です)
そのため、左手を瞬間的にリラックスさせたり、ポジション移動の時間に当てることができるわけです。
このようなことから、開放弦の使用にあたっては「他の音から浮いてしまう可能性がある」というデメリット、リスクと、「正確な音程を取る助けになる、左手が楽になる」というメリットのバランスを十分に考慮するべきです。
一概に、「どんなときにも開放弦を使うな」という指示は、間違っています。
オーケストラでの実践の場においては、フォルテ、フォルテシモなどの全体的に大きな音量で演奏されている箇所は、開放弦を使ってもあまり違和感がないものです。
同時に別の楽器(管楽器など)がなっていれば、なおさら目立ちにくくなります。
速いパッセージ、難しいパッセージでは、積極的に開放弦を使っても良いぐらいです。
一方で、静かなピアニッシモの場面での長い伸ばしの音などでは、開放弦の音は目立つため、極力使用を避けるべきでしょう。