■短3度の重音により発生する差音を求める。
今回の内容は、前回の「うなりと差音の共通点と違い:差音で学ぶバイオリンの重音シリーズ(1)」と、若干重複します。
前回の記事では、うなりと差音の共通点、違いを考え、そして差音が聞き取りやすい協和する重音として、短3度の重音にたどり着きました。
具体的には、以下の2つの音による短3度の重音です。
・440Hzの「ラ」・・・バイオリンのA線の開放弦の音
・528Hzの「ド」・・・バイオリンのA線のファーストポジション2の指の音
もちろん、この2つの音を重音で弾く場合には、両方A線、というわけにはいきません。
バイオリンでの演奏の際は、D線とA線を使って、4-2などの運指で演奏します。
今回の記事でも、実際に2つの音を同時に鳴らしてみましょう。
前回の記事の時と同じように、低い「ファ」の音が聞こえたことと思います。
この低い「ファ」の具体的な周波数は、528Hz-440Hz=88Hzとなります。
この88Hzの「ファ」の音は、重音の下の音である「ラ」の長3度+2オクターブ下の音になります。
つまり、短3度の重音を弾くときに聞くべき差音は、「重音の下の音を基準に、長3度と2オクターブ下がった音」ということになります。
バイオリンの演奏の時には、この「2オクターブ」というのは意識しなくてOKです。
つまり、「ラ」と「ド」の重音を弾くときは、次のように考えれば良いのです。
・今弾こうとしている「ラ」と「ド」の重音は、短3度の重音だ。
・だから、ラの長3度下の「ファ」の『低いオクターブ違い』の音が鳴るはずだ。
何オクターブ下かということが重要なのではなく、安定した差音が鳴っているということが重要なのです。
これは、「ラ」と「ド」の組み合わせに限った話ではありません。
例えば、「ミ」と「ソ」の組み合わせ(もちろんこれも短3度)においても同じ現象が起き、「ミ」の長3度下の音が鳴ります。
念のため、音のサンプルでも確認しておきましょう。
このように、演奏する重音が短3度であれば、聞き取るべき差音は「重音の下の音を基準に、長3度と2オクターブ下がった音」というのは変わらないのです。
その都度周波数の引き算をすればこのことは数学的に確認できますが、バイオリンの演奏においてはこの1行を公式だと思って覚えてしまえばよいでしょう。
最終的には響きを耳で聞くことに慣れ、頭で考えることなく正しい響きを得られるようになることが目標です。
■長3度の重音により発生する差音
さて、次は長3度の重音について考えていきましょう。
使うサンプルの音は、次の2つの音です。
・440Hzの「ラ」・・・バイオリンのA線の開放弦の音
・550Hzの「ド♯」・・・バイオリンのA線のファーストポジション2の指の音
これも、先ほどの短3度の重音の時と同じように、実際バイオリンで演奏する際にはD線とA線を4-2の指使いで押さえることになります。
同時に鳴らした音を、聞いてみましょう。
前回の記事から続けて読んでくださっている皆さんの中には、すでに差音を聞き取ることに十分慣れた方がいらっしゃるかもしれません。
今回のケースでは、低い「ラ」の音が差音として鳴っていることに気付きましたでしょうか。
重音として出している音とオクターブ違いの音なので、直接鳴らした「ラ」の音と、2オクターブ下の差音の「ラ」を聞き分けるには、これまでの例よりも慎重に聞く必要があると思います。
これまでと同様に差音の周波数を計算すると、
550Hz-440Hz=110Hzとなります。
この110Hzの音は、チェロの開放弦Gの1音分上がった、「ラ」の音です。
つまり、長3度の重音を演奏すると、下の音から2オクターブ下がった音が差音として鳴るわけです。
「2オクターブ」ということが重要でないのは、短3度の重音の場合と同じです。
下のほうの音、ここでは「ラ」の音と同じだが、オクターブ違いの低い音、と捉えれば良いのです。
他の長3度の組み合わせ、例えば「ド」と「ミ」などでも、同じような結果が得られます。
試しに、「ド」と「ミ」を同時に鳴らしてみましょう。
差音として低い「ド」の音が鳴っていることが確認できたことかと思います。
■3度の重音について、聞くべき差音(まとめ)
ここまでの内容から、長3度および短3度の重音を演奏する際に聞くべき差音をまとめておきましょう。
・長3度の重音 → 差音は下の音の2オクターブ下の音
・短3度の重音 → 差音は下の音の長3度下、さらにその2オクターブ下の音
■(応用)長三和音と差音の関係に着目した重音ポジション移動の練習
ここからは、少々応用的な内容になりますので、難しいと感じる方は後回しにしても構いません。
唐突ですが、楽典では和声の基礎として3つの音による「三和音」が登場します。
この内、明るい響きを持つものを「長三和音」悲しげな響きを持つものが「短三和音」です。
それぞれ、以下の譜例のような音程になっています。
まず、これらのうち長三和音に着目します。
後々にバイオリンの練習方法の話に移る都合上、ここではニ長調の主和音である。
「レ」−「ファ♯」−「ラ」
を例に考えていきましょう。
この三和音は、2つの重音の組み合わせと捉える事ができます。
「レ」−「ファ♯」
※長3度の和音、バイオリンではA線とE線で、ファーストポジション3-1で演奏
と
「ファ♯」−「ラ」
※短3度の和音、バイオリンではA線とE線で、サードポジション3-1で演奏
です。
この記事の前半の内容を元に、それぞれの差音を求めてみましょう。
「レ」−「ファ♯」の差音は、下の音の2オクターブ下の音ですから、バイオリンのG開放弦から少し下がった、「レ」になります。
「ファ♯」−「ラ」の差音はいかがでしょうか。
こちらは少し難しいかもしれませんが、下の音の長3度下、そして更に2オクターブ下の音ですから、こちらも同じくバイオリンのG線開放から少し下がった「レ」になります。
つまり、長三和音をイメージした場合、その下2つの音による差音と上の2つの音による差音は、一致するのです。
今は計算によりこれを求めましたが、上の2つの音源ファイルを交互に聞けば、差音として鳴っている「レ」が同じ音程であることがわかるでしょう。
さらに付け加えれば、「レ」−「ファ♯」−「ラ」の3つの音を同時に鳴らせば、生まれた差音がお互いに響きを増し、かなり強烈に聞こえます。
次のようになります。
そして、この「共通の差音」は、ファーストポジションとサードポジションの間のポジション移動の練習に、非常に有用です。
このように、ずっと同じ差音が鳴り続けるイメージを持って、重音のポジション移動の練習をします。
当然単音のポジション移動よりも難しいですが、この練習をすることで左手の形を保ったままポジション移動をする技術を身につけることが出来ます。
テンポを早くし過ぎると、差音の鳴り方に意識を向けるのが難しくなりますので、ゆっくりのテンポで行ったり来たりのポジション移動を行いましょう。
2秒ごとにファーストポジションとサードポジションを切り替えるぐらいでちょうど良いのです。
■(応用)短三和音と差音の関係に注目した場合
長三和音に関する紹介を行ったので、短三和音についても同じように考えておきましょう。
こちらは、比較すると少々複雑になります。
先ほどの「ファ#」を「ファのナチュラル」に変えた、
「レ」−「ファ」−「ラ」
の例で考えていきます。
「レ」−「ファ」は短3度の重音ですから、差音はバイオリンのGの開放弦からソファミレドシ。。。と降りていった、「シ♭」になります。
一方、「ファ」−「ラ」は長三度の和音ですから、差音はバイオリンのG線開放の1音下の、「ファ」になります。
これら2つの差音、「シ♭」と「ファ」は完全五度の関係です。
なので、「レ」−「ファ」と「ファ」−「ラ」の組み合わせでポジション移動の練習をする場合、次のように差音を聞き取りながら練習することになります。
この練習は、変化する差音を聞き取りながら行う必要があるので、先ほどの長三和音の例よりも難しくなります。
長三和音でのポジション移動を、差音を聞き取りながらできるようになったあとに、こちらを取り組むべきです。
■まとめ
だいぶ発展的な内容も書いてしまいましたが、基本としておさえていただきたい内容を再度掲載します。
・長3度の重音 → 差音は下の音の2オクターブ下の音
・短3度の重音 → 差音は下の音の長3度下、さらにその2オクターブ下の音
これを押さえた上で、次回は6度の重音についても考えていきましょう。
次の記事へ、続きます。