減五度の重音のフィンガリング(指使い)について

■減五度とは何か

まず、バイオリンのフィンガリングの話に入る前に、減5度とは何か、確認しておきましょう。
減五度とは、完全五度の重音の上の音を半音下げて、音同士の間隔を半音分狭くした重音のことです。
具体的には、「ド−ソ」の完全五度を基準に考えれば、ソの音を半音下げた、「ド−ソ♭」が減五度の音程です。

fifths

もちろん、「ド−ソ♭」だけでなく、「ド♯−ソ」、「レ−ラ♭」などの音程も、すべて減五度です。

fifths3

■減五度を弾くのが難しいのはなぜ?

ある程度バイオリンの演奏に慣れていれば、初見で演奏する場合でも減五度のフィンガリングを即座に決め、左手の置き方を決めることが出来ます。
しかし、減五度は「隣り合った弦で同じ指で押さえられそうで、実はそうではない」という理由で、慣れるまではとっさに演奏することが難しいのです。

例えば、次の譜例を見てください。

5thcg

この2音は完全五度ですから、五度調弦を行っているバイオリンにおいては同じ指で簡単に押さえることになります。
A線とE線を、ファーストポジションの2の指で同時に押さえればいいわけです。
この「ド−ソ」については、次のような3重音の形で実際の楽曲にも出てきます。

65ecg

ここまでの完全五度であれば、たやすく左手を指板に下ろすことができるでしょう。
しかし、次のような譜例ではどうでしょうか。

5cisg

「ド」と「ソ」なので一見2の指で同時に楽に押さえられそうですが、ドに♯が付いているため、同じ指では押さえられません。
そのため、フィンガリングは次のようになります。

fing5cisg

このように、一つ違いの指を使って演奏することになります。
この場合、「ソ」を基準に3と2の指を使う方法と、「ド♯」を基準に2の指と1の指を使う方法の2つの場合が考えられます。
前後のフレーズによってこれを使い分けます。
以下のように、どちらの音が先に登場するか、ということが判断のポイントです。

fingmelo5th

■ブラームスのソナタを題材に、フィンガリングを考えてみる。

ブラームスのバイオリンソナタ第1番「雨の歌」の第一楽章に、減五度のフィンガリングの検討をする上での良い題材があります。
提示部、再現部にそれぞれ似たフレーズが出てくる、以下の部分です。
まずは提示部の方から。

brsonata1_1_5th

この例では、先に記事に書いた「一つ違いの指」で解決します。
もともとD線のソの音はサードポジションの1の指でとって演奏しています。
そして、次にG線のド♯の音が出てくるわけで、ここは2の指で取ります。この時、1の指は次の演奏(繰り返し)に備えて押さえたままとするわけです。

一方、こちらが再現部での形です。

brsonata1_1_5th2

この例はこれまでのフィンガリングの考え方からすると、やや特殊な例になります。
ドのオクターブとなっている箇所は、大抵の場合、1の指と4の指で押さえていることと思います。
そして、オクターブのフレーズに続いて「ファ♯−ド」の形が出てきますが、バイオリンには「5の指」がないため、G線のファ♯を押さえることができません。
どう対処するかというと、1の指を一旦G線から離し、D線のファ♯を1の指で取るわけです。
通常1の指と4の指はある弦の上で4度を作りますが、1の指を下方に伸ばす(ドロップする)ことで、サードポジションの位置に手を保ちながらもファ♯の音を取る、という考え方です。
これで、一つの弦の中で減五度を取ることが出来ます。

なお、この場面においてはオクターブを1-3で取り、ファ♯をG線のサードポジションの4で取る方法もありますが、バイオリンの演奏方法としては特殊であり、指の配置としてもやりにくくなります。

さて、ここまでで減五度の2つの指使いを紹介しました。
この重音の形や連続した音符が楽譜に突然出てくると、指の置き方に迷ってしまうかもしれませんが、ぜひしっかりフィンガリングのパターンを理解して演奏時に使えるようにしておきましょう。

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